研究課題
特別研究員奨励費
本研究は、木質バイオマス資源の有効な利活用に向けて、選択的リグニン分解菌による生分解を高分解能核磁気共鳴法および質量分析法を駆使して捉えることを目的とした。木質は主にセルロース、ヘミセルロース、リグニンから構成される。生分解過程でどのような化学結合が消失し、変化するのかをモニタリングするためには、木質中の各成分の結合相関を2D-NMR上にマッピングする必要がある。特に、選択的リグニン分解菌がどのようにリグニンを分解していくのかを把握するためには、リグニンユニット間の結合情報とリグニンと糖の結合情報が重要である。そこで、できるだけ天然に近い条件で包括的にNMR解析する手法の確立を試みた。溶液NMR法による木質成分の解析は、欧米を中心に数グループから報告されているが、従来法ではユニット間結合の精密構造解析と定量評価を行うための感度、分解能が十分ではなかった。また粉砕時の加熱・酸化による構造変化を避けることも重要である。そこで、温和な条件での微粉砕処理法と溶解法の最適化を行った結果、従来法を凌駕する感度と分解能で2D-NMRスペクトルを得ることに成功した。このように、木質のNMR解析において試料調製法、分析法を検討して他のグループを凌駕する解析法を確立できたことは大きな成果である。また定量評価法についても検討を加え、結合定数の相違による違いを、TOROSY/anti-TOROSY法を用いて算出したJ値から補正し定量性を向上する手法を提案することができた。これは木質の生分解機構の解析のみならず、NMR法によるバイオマスの精密評価・定量系全般に適用可能な成果である。さらに、木材腐朽菌の生分解過程を経時的にNMRで詳細に解析し、腐朽形態の相違をNMR法によって観測することができた。また、生分解の鍵を握る二次代謝物について高分解能質量分析法を用いて新規類縁体を同定し、プロファイリング解析を進めた。
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Chem.Phys.Lipids
巻: 165 ページ: 97-104
巻: 164 ページ: 707-712