研究概要 |
本研究では有性世代に基づく現行の子のう菌類の分類体系に,これまで無視されてきた無性世代の形態情報を加え,両世代に基づく分類基盤の構築を試みた. 子のう菌門に属する無性世代の菌141試料について,形態観察およびリボソームDNAの2領域(18S,28S領域)の塩基配列を取得,既存のデータと統合し計470からなる分子系統樹を構築した.その結果,無性世代の菌について子実体形態では酵母,糸状不完全菌類,分生子果不完全菌類の順に出現したことが示唆され,胞子形態では系統樹基部の祖先系統において小型で無色・単細胞の胞子を有する種が多く,系統樹末端の子孫系統では大型で有色・多細胞の胞子を有する種が多い傾向にあることが確認された.胞子の大型化,多細胞化と着色はいずれも胞子の耐久性を高める効果があると考えられることから,無性世代の菌は胞子自体の耐久性を高める方向へと進化してきたものと推測された. 本解析において,無性世代の菌のみで構成される未知の系統が複数確認された.なかでも,クロイボタケ綱プレオスポラ目に属し,暗褐色・多細胞で掌様の胞子を特徴とするDictyosporium属およびPseudodictyosporium属は共によく支持された単系統を形成することが示唆された.本系統は形態学的にも系統学的にも既存のいずれの科とも異なると推測されることがら,新科を設立し収容すべきであると考えられた.このように無性世代の菌のみで構成される系統を科として扱う試みはこれまで行われておらず,今後の子のう菌分類に大きく寄与するものと考えられる.
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