研究概要 |
物性物理学において電子の遍歴・局在性は基本的かつ重要な問題である。本研究で特に動機となるのはPrFe_4P_<12>という局在性の強いf電子を一原子あたり2個持つ物質であり、この系ではf電子の挙動が遍歴と局在の狭間に位置している。ゆえにこの振る舞いを解明することは電子の遍歴・局在性に対する理解の深化につながる。これまでの研究において、PrFe_4P_<12>で観測されている秩序状態は近藤一重項(遍歴的f電子)と結晶場一重項(局在的f電子)が交互に並ぶ秩序によって説明できることを示した。研究計画ではPrFe_4P_<12>のさらなる理解のために、(100)や(110)方向の磁場下の重い電子形成機構を明らかにすることを目的とした。磁場効果は結晶場効果を増強して局在性を強めると考えられる。これまで解析したPrFe_4P_<12>のモデルに対して結晶場効果を増大させていくと、秩序は壊れ非秩序相へと1次転移する。有効質量を計算すると、非秩序相においてf電子は局在的に振る舞っているにもかかわらず重い電子が形成されていることが明らかとなった。この重い電子状態は実験で観測されたPrFe_4P_<12>のフェルミ面がf電子を持たないLaFe_4P_<12>のフェルミ面に類似しているという事実とコンシステントである。通常はf電子が遍歴性を獲得して重い電子を形成するため、本研究の結果はこれと対照的である。さらにモデルに対してf電子希釈効果を調べると、強磁性が現れることも明らかにした。この結果はPrFe_4P_<12>においてPrをLaで置換すると強磁性が現れる実験結果と対応する。 本研究の理論的視点は一原子あたりf電子を1個持つ系における遍歴・局在性に対しても示唆を与えた。すなわち、反強磁性のような秩序相では単位胞あたりf電子が2個存在する状況になるため、上記と同様の物理を含む。このような系を記述するモデルを解析した結果、実験的に観測されているCeRh_<1->xCo_xIn_5,CeRu_2(Si_xGe_<1-x>)2,UGe_2,CeRu_2A_<10>の相図をシンプルなモデルから統一的に説明できることを示した。
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