研究課題
特別研究員奨励費
物質中における電子の振る舞いは、電子が動き回るか原子周辺に留まるかという両極限の視点から遍歴電子系と局在電子系という大きな枠組みで捉えることができる。一方で局在性と遍歴性の競合あるいは協調から生まれる多彩な物性の研究も盛んに行われており、希土類充填スクッテルダイト化合物PrRu_4P_<12>の多極子秩序もそれらのうちの一つである。Prイオンを12個のP原子が囲む特徴的なカゴ型構造を持つPrRu_4P_<12>では、Prの4f電子とPの2p電子が協調することで生まれる強い混成効果が多極子秩序機構において重要な役割を担っていることがわかっている。当初は渡仏後にPrRu_4P_<12>の希土類及び遷移金属サイト置換系について中性子及び放射光実験を行う計画であったが両実験とも計画遂行が困難になったため、本年度はスクッテルダイト化合物と同じくカゴ型結晶構造を持ち、同じく強い混成効果が期待されるCeRu_2Al_<10>について偏極中性子非弾性散乱による磁気励起の偏極依存性測定、またそのRh5%置換系及び同様の結晶構造を持つNdFe_2Al_<10>の磁気構造解析を行った。CeRu_2Al_<10>の反強的磁気秩序では、磁気モーメントが磁化容易軸と異なる向きに揃う奇妙な振る舞いに加え、転移温度がRKKY相互作用による予想よりも大きい値を示すことから、どのような磁気相互作用が働いているのかが注目されている。本研究では偏極中性子非弾性散乱実験によりCeRu_2Al_<10>の反強的磁気秩序相における異方的磁気相互作用に起因する励起の観測に成功した。測定結果とRPA等による計算値との比較により特異な異方性の原因として挙げられている異方的混成効果の検証へと研究が進められると考える。一方、Ruサイトをわずか5%のRhで置換した系では磁化容易軸と磁気モーメントの向きが一致することが磁化測定より示唆されている。本研究では粉末中性子回折実験の結果を用いて磁気構造解析を行い、モーメントの大きさとその温度変化を示し、先行研究で指摘している通りの磁気構造であることをより直接的な観測手法をもって確認した。CeRu_2Al_<10>の磁気秩序における遷移金属サイトの寄与が明確になり、混成効果の重要性を支持する結果が得られた。同じ結晶構造を持つNdFe_2Al_<10>は非常に多彩な磁場-温度相図を持つことがわかっているが、零磁場での磁気構造はまだ決定されていない。本研究では粉末中性子回折実験の結果を用いて磁気構造解析を試み、double-k構造の可能性を見出した。磁場中での磁気秩序相について理解する上での重要な指針となると考えられる。
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J.Phys.Soc.Jpn.Supplement
巻: 80 号: Suppl.A ページ: SA026-SA026
10.1143/jpsjs.80sa.sa026
巻: 80 号: Suppl.B ページ: SB019-SB019
10.1143/jpsjs.80sb.sb019