研究概要 |
テンシオメータを用いた高密度水文観測網により、前年度は無降雨時及び降雨時に発生する不均質な水文現象のデータを取得できた。それを用い、今年度は(A)三次元浸透計算モデルにより、観測斜面の水文過程を高精度で再現することができた。さらに(B)基岩湧水が斜面水文過程に与える影響について詳しく解析できた。以下、「研究実施計画」に照らし(A),(B)の具体的内容を述べる。 (A)不均質性を考慮した三次元浸透計算モデル構築 観測斜面を多数の四面体要素メッシュに分割することで物理モデル化し、三次元のRichards式を有限要素法で解くことで浸透計算を行った。複雑な透水係数分布を任意に設定して難透水層や選択流路などの特性を再現し、さらに基岩湧水による水供給を実測値に基づき与えた結果、観測された三次元水流を良好に再現することができた。このように、斜面水文特性の中でも特に把握が困難な透水係数分布と水供給を、浸透計算を用いることで高精度に推定することができた。 (B)基岩湧水が斜面水文過程に与える影響の考察 斜面上の一点から発生する湧水が、斜面流出全体の90%を占めていることがわかった。さらに湧水点から斜面末端までの間では常に飽和定常流が起こり、非常に圧力伝播しやすい環境であることがわかった。水理解析式から斜面の有効透水係数を推定すると、土壌サンプル値に比べ非常に大きな値を示し、マクロボアやパイプの発達が進んでいることが示唆された。このように、湧水の存在により斜面末端部の水文・生物環境に大きな不均一性が生まれることがわかった。
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