研究概要 |
昨年度報告した鉄サラン触媒による2-ナフトール類の酸化的脱芳香族化反応(J. Am. Chem. Soc. 2012, 134, 20017)で得られた知見を基に、光学活性なスピロ環骨格を有するジヒドロベンゾフラン類のタンデム合成法を開発した。この合成は、1-メチルー2-ナフトール類の酸化的ortho-キノンメチド(o-QM)形成、続くフェノール類のMichael反応・分子内の酸化的不斉脱芳香族化の3段階よりなり、ワンポットで行われる。鉄サラン触媒は、酸化的なo-QM形成および酸化的不斉脱芳香族化反応の両方に関与する。o-QM類は反応性の高い求電子種であり、これまでに不斉合成を含めた種々の合成に利用されているが、通常これらの生成には脱離基等を基質に予め導入する必要があった(J. Org. Chem, 2011, 76, 9210)。これに対し、本研究では鉄サラン触媒と分子状酸素より生成するスーパーオキシドが、基質より導かれたラジカルカチオン種のベンジル位の水素原子を直接引き抜くことで、脱離基等を用いることなくo-QMPtが生成することを見いだした。反応系中でのo-QM種の生成は、N―ビニルアセタミドを添加すると逆電子要請型のDields-Alder反応が進行し、対応する環化生成物が得られることで確認された。そこで、系中で生成されるo-QMにフェノール類を作用させ、上記のタンデム反応でスピロ環骨格を有するジヒドロベンゾフラン類を最高93%eeの不斉収率で得ることができた。また得られた化合物をオゾン酸化・酢酸鉛による酸化条件に付し、続く縮合反応によるイミド形成とLAH還元によって、生物活性を有するスピロベンゾフランイソキノリンへと短段階で誘導可能である事も示し、本反応の有用性も明らかにすることができた。
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