研究課題
特別研究員奨励費
本年度は昨年度に引き続き、外集団への攻撃性が生じうるかを検討する実験を行った。昨年度はコスト祖を支払った攻撃性を測定する経済ゲームとして新たに先制攻撃ゲームを開発したが、そもそもの攻撃率が低いという問題があった。そこで今年度はまず、ゲームの内容を改善し、さらにゲームでの攻撃行動が防衛のための攻撃であることを示すための実験を行った。具体的には以下の通りである。参加者は二人一組で1500円を元手としてゲームを行い、一方が攻撃のボタンを押すとボタンを押したほうが100円を支払い、押されたほうは1000円を失うこととなった。両者がボタンを押しても結果は早押しで決まり、後から押した場合は自分・相手に対して何の影響もなかった。実験では二人一組の双方がボタンを押せる双方向条件と、一方だけがボタンを押す権利があり、もう一方はボタンを押せない一方向条件を参加者間で配置した。先制攻撃ゲームにおけるボタン押し行動が「相手がボタンを押すかもしれない」という恐怖に基づくものであれば一方向条件ではボタンを押し行動が生じないと予測されるが、実験の結果はこの予測を支持した。双方向条件での攻撃率は50%であったが、一方向条件では4%であった。双方向条件においてかなりの攻撃率が観察されたため、次の実験ではこの攻撃率が内集団相手と外集団相手で異なるのかを確かめる実験を行った。132人を実験参加者とし、最小条件集団を用いて相手の所属集団を操作した結果、攻撃率は相手が内集団の場合は約29%、外集団の場合は約32%であり、統計的な有意差は見られなかった。つまり、昨年度実施したゲームを改良し、攻撃率が高まるようにしても、昨年度の結果と同様に外集団に対して特に攻撃的になるという現象は観察されなかった。これは「ヒトには外集団に対する攻撃性が身についている」と主張する共進化モデルの予測とは明確に反する結果である。
2: おおむね順調に進展している
1度の実験結果によって共進化モデルの予測の妥当性に結論付けるのは早急である。従って、昨年度に観察された結果を、実験パラダイムの改良を経て再検討することは重要である。この可能性は申請書において既に想定され、その旨記述されている。従って、研究は順調に進展していると考えられる。
コストを支払った攻撃行動がある程度観察される状況においてでも、共進化モデルが予測するように、外集団への攻撃行動が生じるわけではないことが昨年度と今年度の実験において示された。二つの側面から今後の推進方策が考えられる。ひとつは共進化モデルのさらなる妥当性の検証という側面から、今回用いているゲームを応用し、参加者が内集団への協力と外集団への攻撃の両方を同時に意思決定できる状況を用いた実験を行うことである。もうひとつは社会心理学的な側面から、防衛目的の外集団への先制攻撃がどのような状況で生じるのかを検討する実験である。いずれも新奇な実験というだけでなく、理論的に重要な実験だと考えられる。
すべて 2013 2012 2011
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (6件)
proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
巻: 109 号: 50 ページ: 20364-20368
10.1073/pnas.1212126109
Organizational Behavior and Human Decision Processes
巻: 120 号: 2 ページ: 260-271
10.1016/j.obhdp.2012.06.002
Asian Journal of Social Psychology
巻: 15 号: 1 ページ: 60-68
10.1111/j.1467-839x.2011.01362.x