研究概要 |
地殻内のマグマ供給系では,メルトから析出・分離した流体が熱と溶質を効率よく運び,移動先でマグマの物理化学的性質を変化させることで,火成作用の起こりかたをコントロールしている.特に,巨大噴火を起こすマグマ溜まりでは,噴火前に高温流体が注入され,マグマ溜まりが活性化していると考えられている.本研究課題では,そのような流体輸送のメカニズムを解明することを目指し,二次イオン質量分析計(SIMS)を用いて火山ガラス(斑晶鉱物中のメルト包有物)の揮発性成分の分析に取り組んでいる.本年度は,第四紀の大規模火砕流堆積物(鬼首カルデラ起源)を対象としたガラス包有物の揮発性成分(H2OとCO2)の分析を行うため,SIMS分析のための検量線を作成し,分析方法を確立した.昨年度,すでに標準物質(炭素濃度が既知のガラス)を合成しており,本年度はこれを用いて検量線を確立する予定であったが,炭素濃度の空間不均質が予想以上に大きく,再現性のよい検量線が得られなかった.そこでこのガラスの使用をやめ,代わりに,かつて別の目的で合成したガラス試料(未発表およびYoshimura and Nakamura(2010)のもの)を用いて検量線の確立に再チャレンジしたところ,直線的で再現性のよい検量線を得ることに成功した.また,炭素のバックグラウンドレベルを低下させるため,試料をマウントするエポキシ樹脂の使用をやめ,代わりに低融点合金を使用することにした.また,この新しい標準試料では,Hr20の濃度も定量してあったため,H2O濃度の検量線も確立できた.以上により,火山ガラスのCO2濃度およびH2O濃度の両方をSIMSで定量分析できる環境が整備された.
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