研究課題
特別研究員奨励費
化学物質の発がん性評価手法であるゲッ歯類を用いた発がん性試験は、長期間に亘り、コスト、評価の効率性や動物愛護の面で課題が大きく、短期間で発がん性を予測出来る評価系の確立が求められている。昨年度の研究で、標的臓器に関わらずラット28日間投与で高い増殖活性を示す発がん物質では、細胞増殖指標のKi-67、minichromosome maintenance 3(Mcm3)、G_2/M期に機能するtopoisomerase IIα(TopoIIα)、ubiquitin D(Ubd)、アポトーシス指標のTUNEL陽性細胞が、発がん性短期予測指標となり得る可能性を示唆した。当該年度では、これらの指標候補の発がん過程早期への関与を探るため、肝臓、甲状腺、膀胱、前胃及び腺胃を標的としたラット二段階発がんモデルを用いた発がんプロモーション実験を行い、発がんプロモーション過程早期に形成される前がん病変及び過形成病変に対する局在性を探索した。結果、Ki-67、Mcm3、Topo IIαそしてアポトーシスは、前がん病変と考えられている肝臓のglutathione S-transferase placental form陽性肝細胞巣ないし甲状腺のphospho-p44/42mitogen-activated protein kinase陽性細胞巣内で陽性細胞数の増加が認められた。また、膀胱、前胃及び腺胃に形成された過形成病変内でも同様の反応性が示された。一方、Ubd陽性細胞は前がん病変内では増加せず過形成病変内でのみ増加が認められた。以上のことより、指標候補のうちUbdにのみ反応性を示さなかった肝臓や甲状腺の前がん病変では細胞増殖とアポトーシスが関与するが、UbdによるM期破綻はもはやこの過程には関与していないことが示唆された。またそれとは対照的に、Ubdを含む指標候補全てに反応性を示した膀胱、前胃および腺胃の過形成病変は、28日間投与例と同様の反応性であることから、前がん病変としての細胞の特徴をまだ有しておらず、前がん病変の過程に入る以前の状態にあるものと示唆された。
2: おおむね順調に進展している
当該年度の計画にある、二段階発がんモデルを用いた複数の標的臓器を対象とした発がん性短期予測指標の反応性の検討を実施した。結果、これら指標候補の内、細胞増殖とアポトーシスは前がん病変と過形成病変で共に亢進したものの、Ubdは過形成病変過程のみで亢進したことから、前がん病変過程にはUbdによるM期破綻は関与せず、一方過形成病変は前がん病変以前の過程にあることが示唆された。以上のことより、当該年度の計画を全て遂行及び終了したと感じている。
本研究は当該年度を持って、終了することとなった。発がん性短期予測指標候補の変動が、発がん物質投与により継代的に受け継がれていく形質であるかをエピジェネティック制御系から検討する当初最終年度に組み込まれていた研究は、引き続き当研究室にて引き継がれていく予定である。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (7件)
The Journal of Toxicological Sciences
巻: 37 号: 6 ページ: 1093-1111
10.2131/jts.37.1093
130004447011
巻: 37 号: 6 ページ: 1113-1126
10.2131/jts.37.1113
130004447012
Archives of Toxicology
巻: (印刷中) 号: 9 ページ: 1453-1464
10.1007/s00204-012-0829-z