研究概要 |
本研究ではべん毛蛋白質輸送装置におけるATPase複合体(FliH/I/J)の動的構造と機能の解明を目的とする。24年度は、ArPase複合体の輸送ゲートへの局在の際に中心的な役割を果たすFliHの分子機構についての解析を進め、共通の祖先から進化したと考えられているATP合成酵素と似た作動機構を提唱した(Hara et al.,J.Bacteriol,2012)。FliHはATP合成酵素の外周固定子と相同であるが、外周固定子はそのN末端でプロトンチャネルであるaサブユニットと相互作用している。そこで、本研究では、FliHのN末端が相互作用しているFlhAのイオン透過能について、検討を行った。まず、pH感受性GFPを用いて細胞内pHを測定したところ、FlhA発現時に顕著にpHが低下していることが明らかになった。これは、細胞内にプロトンが大量に流入していることを示し、FlhAがプロトン透過性を有していることが示唆された。また次にFlhAのイオン特異性を確かめるために、ナトリウムイオン指示薬を用いて同様な実験を行ったところ、驚くべきことに、FlhAがナトリウムイオン透過性も有していることが示唆された。これらの結果は、輸送装置とATP合成酵素の間には、ArPase複合体一膜構成要素の相互作用形式、さらには膜因子の性質といった点にも類似性があることを示しており、ArPase複合体(FliH/I/J)のさらなる機能的類似も示唆している。 24年度に取り組んだArPase複合体一輸送ゲート間相互作用及びFlhAは、べん毛蛋白質輸送装置と高い相同性がある赤痢菌やペスト菌などの病原菌が宿主に侵入する際に中心的な役割を果たす病原性因子分泌装置でも、必要不可欠な働きをしているため、病原菌による感染症の予防に向け、新たな標的機構を提示したことで、医療分野への貢献も期待できる。さらに共通の祖先から進化したと考えられているATP合成酵素と似た作動機構が輸送装置に存在することを示すことができ、両者の動作・設計原理解明に向け新たな知見を与えることが出来た。
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