研究概要 |
本研究は、アオリイカの資源動態を理解することを最終目標に、本種の視覚によるコミュニケーションと、これを介した群れの維持機構について、飼育観察と野外観察から明らかにすることを目的とした。目的達成のために次の3項目を実施した。(I)群れの隊形維持およびコミュニケーションに関わるアオリイカの視覚能力の解明、(II)アオリイカの群れにおける隊形特性の解明、(III)アオリイカの視覚的コミュニケーションを介した群れ機能の解明。各研究項目を以下に要約する。 (I):アオリイカの視覚特性を調べるため、孵化時から60日齢まで飼育育成したアオリイカについて、網膜の組織学的観察と行動学的観察を行った結果、孵化直後から明瞭な視覚発達が見られることを明らかにした。また、孵化時より、捕食者の映像などの刺激提示時のボディーパターンを観察した結果、成長過程に伴い、表出パターンが多様化する様子が観察された。 (II):アオリイカの群れの隊形特性については、論文として取り纏め、受理された。また、沿岸性アオリイカの群れの隊形特性を、生息域の異なるスルメイカとホタルイカのそれと飼育下で比較した結果、これら2種の群れには、アオリイカの群れのような特徴的な隊形は認められなかった。 (III):アオリイカの群れ構成個体間の関係性や個々の役割と群れサイズとの関係を調べるため、大小規模の群れにソーシャルネットワーク分析を適用して解明を試みた結果、個体数増加に伴い、3,4個体が完全に連結した構造が複数重なるサブグループの数が増加した。また、他個体と多くの関係を持つハブ個体がそれらを連結していた。続いて、群れ内での個体の役割を調べるため、餌生物などに対するハブ個体の反応を、他個体に提示したところ、餌生物を直接見なくても索餌行動を示した。また、それらの個体は、断続的に体色を明滅させていたことから、視覚的コミュニケーションの可能性が示唆された。
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