研究課題/領域番号 |
11J04184
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 国内 |
研究分野 |
生態・環境
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
小川 浩太 北海道大学, 大学院環境科学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2011 – 2013
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研究課題ステータス |
完了 (2013年度)
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配分額 *注記 |
1,900千円 (直接経費: 1,900千円)
2013年度: 600千円 (直接経費: 600千円)
2012年度: 600千円 (直接経費: 600千円)
2011年度: 700千円 (直接経費: 700千円)
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キーワード | 染色体放出 / 表現型多型 / NGS解析 / 繁殖多型 / 性決定 / 生活史進化 / アブラムシ / 環境応答 / 周期性単為生殖 / エンドウヒゲナガアブラムシ / 成熟分裂 / 極体放出 |
研究概要 |
アブラムシは繁殖多型を示す昆虫であり、春から秋の気候が好適な時期には胎生単為生殖で繁殖するが、晩秋になると卵生有性生殖を行い、卵で越冬する。この周期性単為生殖では適切な時期に適切な表現型を創出することが非常に重要であるが、その制御機構については、未知の部分が多い。この機構の分子生物学的・発生生物学的制御基盤が解明できれば、アブラムシの周期性単為生殖の獲得・進化についての理解が大きく進むと考えられる。本研究ではゲノム解読が完了しているエンドウヒゲナガアブラムシを材料に、繁殖多型の発生制御機構の中でも特に重要だと思われるオスの発生制御機構の解明を目指した。 アブラムシの性決定様式は雄ヘテロXO型であるため、2本のX染色体を持つ親虫が、X染色体を1本しか持たない雄を単為生殖により産出するには、雄へと成長する卵は、X染色体を1本選択的に捨てる必要がある。先行研究より単為発生卵がオスになるかメスになるか、つまり染色体放出が生じるか否かは、卵成熟過程のgermarium(胚腺)内で決定されると考えられる。本研究では、まず飼育条件を操作し、胎生メス(単為生殖メス)・卵生メス(有性生殖メス)・オスのそれぞれのみを産出するアブラムシを誘導した。そして各カテゴリのアブラムシの卵巣を摘出し、レーザーキャプチャーマイクロダイセクション(LCM)を用いてgermariumのみを正確に単離した。単離したgermariumから抽出できたRNAは非常に微量であったためRibo-SPIA法により増幅し、RNA-seq解析(トランスクリプトーム解析)を行った。その結果、ヒストン遺伝子やアブラムシ特異的に獲得・重複したと思われる遺伝子の使い分けが確認できた。アブラムシは他の生物に比べ遺伝子数や重複遺伝子が多いことが以前から指摘されていたが、これらの重複遺伝子やアブラムシ特異的な遺伝子が染色体放出という複雑な機構を支えていると考察された。言い換えるならば、これらの遺伝子重複や新規遺伝子の獲得がアブラムシの環境依存的なオス産出を可能とし、複雑な生活史進化の原動力となった可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
昨年度までに立ち上げた飼育誘導系と次世代シーケンサー(NGS)、レーザーキャプチャーマイクロダイセクション(LCM)を組み合わせ、アブラムシの胚腺(卵巣小管の頂端部で雄産出に関与)におけるトランスクリプトーム解析(RNA-seq)を行った。その結果、ヒストン遺伝子とアブラムシ特異的な重複遺伝子が染色体放出において重要な役割を担っていることが示唆された。NGSとLCMを活用することで、当初の計画よりも質・量ともに優れたデータが得られ、研究が大幅に進展した。
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今後の研究の推進方策 |
今後はNGS解析で染色体放出の実動部隊の候補遺伝子の更なる解析を進めると同時に、遺伝子重複と繁殖多型進化の関係性を明らかにするために近縁種で胎生メスのモルフを持たないネアブラムシ属(Phylloxeridae)とゲノム科学的な比較解析を行う予定である。周期性単為生殖はアブラムシ上科全般に見られるが、胎生単為生殖が見られるのはアブラムシ科のみであり、残るネアブラムシ科とカサアブラムシ科の単為生殖世代は卵生単為生殖を行う。ネアブラムシとカサアブラムシはより多くの祖先的な形質を残していると考えられており、両種群でのオス産出機構が分かれば、周期性単為生殖の進化や胎生単為生殖の進化プロセスをより深く考察できると考えられる。
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