研究概要 |
事象関連電位(Event-related potentials, ERPs)において文字列に特異的な応答を示すN170成分を指標とし, 文宇列処理における音韻と正書法の相互作用, および両者の相互作用への注意の関わりを検討した。N170は左半球優位性を示すが, これは文字列に対する自動的な音韻変換処理を反映すると考えられている。今年度の研究では, N170の左半球優位性は文字列が課題に関連する刺激であった時にのみ示されたことから, 自動的とされる音韻変換処理は文字列への視覚選択的注意を必要とすることが示唆された。この知見は, 発達性ディスレクシアにおいて視覚選択的注意の障害が読み困難をもたらすとする仮説を支持するものであり, 障害メカニズムの理解に貢献すると考えられる。また, N170の左半球優位性は文字間隔が狭く, まとまりとしての処理が可能な文字列に限って生じたことから, 音韻変換処理の生起は効率的な正書法処理に依存することも示唆された。これらは, N170の左半球優位性が自動的な音韻処理のみならず, 正書法処理と音韻処理の相互作用を反映する可能性を示唆しており, それらを評価する電気生理学的マーカーとして利用できる可能性が示された点で有意義な結果と言える。 指導法研究では, 昨年度までの研究で発達性ディスレクシアのある生徒への有効性が示されたフォニックス法による英単語の読み書き指導が, より広範な学習上の困難がある生徒に対しても適用可能かどうかを検討した。その結果, 全般的な軽度知的障害が認められる生徒, およびワーキングメモリの弱さを示す生徒に対しても有効であることが示唆された。英単語の学習困難は, 発達性ディスレクシアの範疇に入らない生徒においても生じることが多いため, フォニックス法のより幅広い適用可能性が示されたことは重要な成果である。
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