研究概要 |
過去の研究は、大脳皮質の一次視覚野(Vl)、さらには一次聴覚野(A1)における効率的な符号化(スパースコーディング)を示唆している、しかし、同様の符号化戦略が他の領野でも有効なのかどうか、また、皮質表面上における空間配置を同時に考慮するモデルもまた普遍的なものかどうかという課題が残されている。そこで本研究課題では、(A)スパースコーディングのモダリティ間普遍性、(B)二次元地図を考慮したスパースコーディング、という2つの観点から、皮質感覚系モダリティ間の共通性と差異に潜む原理を探究してきた。 (A)の観点からは、私の予備的な研究(Terashima & Hosoya, 2009)を拡張し、より生物学的に妥当な条件下で評価した。得られた結果は前年度末にNeurocomputing誌に発表し、今年度は学会等で成果を報告した。 (B)の観点からは、A1とV1で近年発見された異なる機能的地図構造を統一的な観点から説明し、さらに神経科学的な議論を進めた。V1では反応特性が皮質表面で滑らかな変化を示すのに対し、A1では乱雑である。この違いは両領野が異なる情報処理戦略を採っている可能性を示唆するが、私は同一の適応戦略が両方の地図を生成し得るという仮説を提唱した。かつてV1向けに提唱されたトポグラフィック独立成分分析を用い、その入力として自然画像ではなく自然音を用いることで、A1に似た乱雑な地図を生成した。さらに、これまでV1でしか議論されてこなかった複雑細胞をAlで議論し、Alで知られるピッチ細胞が複雑細胞と相同である可能性を指摘した。得られた結果は前年度にNeural Information Processing Systemsで発表し、今年度は招待講演を含む学会発表で報告した。
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