研究概要 |
本研究では、記憶・学習といった、高次情報処理課題遂行時の神経活動依存的な遺伝子発現の可視化を目指すものである。その目的遂行のために、神経活動依存的に転写調節される、最初期遺伝子の一つであるArc遺伝子のプロモーター領域を利用し、発光を呈する酵素であるルシフェラーゼを付加したトランスジェニックマウスを作成し、発光観察系の開発と高次情報処理課題の設定を行うものである。 平成24年度までに同じ個体を繰り返し観察できることを特徴とした、侵襲性の低い定量的な個体発光観察法を確立した。また、学習課題として、匂い弁別課題を設定し、野生型およびトランスジェニックマウスにおいて学習の成立を確認した。最終年度である今年度はこの発光観察法と匂い弁別課題を組み合わせることで学習依存的に神経活動依存的な遺伝子発現が変化する部位の検出を目指した。 具体的には、匂い弁別課題と発光観察法の組み合わせフロトコールの確立を行った。課題訓練前後において匂い刺激を提示した際の発光観察を行い、匂いの提示順や発光観察を行うタイミング等を検討した。また, 同一個体での学習課題の訓練前後における発光観察の結果から、学習依存的な新規遺伝子発現の変化部位を同定する解析方法を画像ベースで確立し、これより、訓練の時間経過に対して訓練前に比べて、同じ匂い刺激を受けた場合でも遺伝子発現が変化している大脳皮質部位を検出することに成功した。 本研究によって、初めて神経活動依存的な遺伝子発現の変化を時空間的に可視化する新しい観察系を確立し、学習依存的な遺伝子発現の変化部位を同定できることを示した。この新しい観察系を用いることで、動的な変化を観察することが困難であった、神経活動依存的な遺伝子発現をリアルタイムに観察し、主要変化部位に介入することを可能にし、記憶形成における神経活動依存的な遺伝子発現の時空間制御過程に迫る可能性を示した。
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