研究課題
特別研究員奨励費
前年度の研究結果より、ネコでは餌から海洋起源の天然生成物であるメトキシポリ臭素化ジフェニルエーテル(MeO-PBDEs)を取り込んだ後、生体内で脱メチル化し水酸化PBDEs(OH-PBDEs)を生成していると予想された。そこで、ネコとイヌの肝ミクロソームを用いた脱メチル化実験を実施したところ、ネコ、イヌ肝臓中でMeO-PBDEsからOH-PBDEsへの生体内変化が誘起していることを確認した。近年、OH-PBDEsは神経伝達物質やTHに影響を及ぼすことが指摘されており、ネコにおけるこの種の毒性がとりわけ懸念された。陸棲哺乳類の代謝物蓄積特性および体内動態の解明に関して、愛媛大学の生物環境試料バンク(es-BANK)に冷凍保存されている陸棲哺乳類(イヌやネコ)の肝臓を供試し、組織中に残留するMeSO_2-PCBsの分析法の開発を行ったところ、良好な回収率を得て分析法を確立することができた。また、前年度の結果より、動物種によって水酸化代謝物の組成パターンに違いが認められ、蓄積特性の種差が明らかになった。とくに、ネコは他の種と異なる血中水酸化代謝物の残留傾向を示したため、詳細な解析を試みた。このような差異は肝臓の薬物代謝能力の違いに起因すると考えられたため、獣医師の協力のもと採取したネコの新鮮肝やes-BANKに冷凍保存されているヒト、イヌ、ラットの肝ミクロソームを用いてPCBs代謝実験を行った。その結果、イヌの肝ミクロソームではネコ、ヒト、ラットと比べ多くの水酸化代謝物の生成が確認されたため、イヌのPCBs水酸化能力は他の陸棲哺乳類より高いことが示唆される。しかし、イヌやネコのPCBs減少量に対するOH-PCBs生成量は極めて少なく、OH-PCBs以外の変化物に代謝されているものと推察された。さらに、第II相反応を介した代謝・排泄能が体内の化学物質濃度に大きく関与していると予想されるため、陸棲哺乳類の第II相抱合体化能の評価が今後の課題である。ペット動物を対象とした代謝物の汚染実態および蓄積特性の解明とリスク評価の結果は、国際学会で口頭発表するとともに、現在、原著論文を投稿中である。
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