研究概要 |
本研究ではタンパク質キナーゼと基質の関係性を明らかにすることを目的とし、in vitroキナーゼ法とLC-MS/MS解析を組み合わせた手法を試みた。昨年度は、本手法をc-AMP regulated protein kinase A (PKA)、extracellular signal-regulated kinase 1 (ERK1)、およびRAC-alpha serine/threonine protein kinase (AKTl)の三種のキナーゼに適用した。その結果、PKA、ERK1およびAKT1の基質リン酸化部位として、それぞれ3,585、4,374、および1,778種のリン酸化部位が同定された。 今年度は、昨年度に得られた大量のリン酸化部位から情報抽出を行い、各キナーゼが基質認識する際に重要となる要素を明らかにした(研究1)。その結果、得られたデータの情報量の豊富さゆえ、公共データベース登録のあった既知リン酸化部位情報と比べると、より詳細なモチーフ配列の検出が可能となった。大規模基質プロファイルから抽出したモチーフ配列は、既知リン酸化部位より同定されたモチーフ配列のみならず、キナーゼ特異的なモチーフを含む新規のモチーフ配列を多数含んでいた。また、同じキナーゼファミリーであるPKAとAKT1のモチーフ配列間での選択性評価から、既知基質情報の欠如が選択性の低いモチーフ配列の同定の原因となるという具体的な事例を示した。更に、モチーフ配列のみならず、リン酸基受容体(SまたはT)やリン酸基自身に対するキナーゼの選択性といった、その他の基質認識要素を示唆した。 続いて、PKAの阻害薬あるいは活性化薬にて刺激した細胞由来のタンパク質消化物に対してLC-MS/MS解析を行った研究2)。細胞内ではシグナル伝達が行われるため、これらの結果には、PKAの直接的また間接的なin vivo基質が共に含まれる。そこで、研究1で獲得したPKAのin vitro基質プロファイルを用いて、in vivo細胞内のPM直接基質の特定を試みた。その結果、本手法によって20以上のリン酸化部位がPKAの直接基質として同定された。
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