研究概要 |
本研究の目的は,ドラッグデリバリーシステム(DDS)に用いる新規磁性ビーズ材料の開発である。DDSには,様々な機能が求められており,幅広い分野の知識が必要な研究である。本年度の主な目的は,「高分子膜に用いるヒドロゲルの膨潤・収縮メカニズムの解明とタンパク質をターゲットとした分子インプリントゲルの合成」である。 本年度はまず,ヒドロゲルの基礎特性の解明を目的とし,以下の研究を行った。はじめに,架橋剤として分子量の異なるポリエチレングリコールジメタクリレート(PEG-DMA)を用いてPEGゲルを合成し,種々の溶液に対する相対膨張率を評価した。その結果,アニオン性のPEGゲルを用いた場合,酸,塩基,アニオン性化合物,一官能のカチオン性化合物では,PEGゲルの相対膨張率はイオン強度のみに基づいて収縮することが示された。一方で,二官能のカチオン性化合物に対して,相対膨張率は大きく低下した。これは,ゲル中のイオン基間の斥力の抑制に加えて,溶質の二つのイオン基がゲル骨格内の対イオン基を引き寄せるため,溶質のイオン基の距離に基づく収縮が起きたと考えられる。さらに,エチレンジアミンを用いて同様に検討した結果,エチレンジアミンの二つのアミノ基の解離に伴って特異的な収縮が観察され,pHを変化させることで,ヒドロゲルの体積を制御可能であることが示唆された。 また,分子インプリント法を用いて特異的に体積変化する分子刺激応答性ヒドロゲルを開発した。その結果, PEGゲル合成時に鋳型分子としてターゲットタンパク質を導入することによって,インプリント効果に基づく選択的吸着性能の発現,およびPEGゲルの特異的な収縮が観察された。以上の結果から,新規磁性ビーズ材料に必要不可欠な機能性高分子の開発に成功した。
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