研究概要 |
増え続ける耐性細菌に対する新規抗菌薬の開発は重要である。新規抗菌薬は既存の薬剤よりも安定かつ安全であることが求められる。しかし、現在の開発方法では多くの時間が必要であり、そのため多大なコストを必要とする。そこで、コストが安く治療効果を指標とした新規医薬品の評価が可能であるカイコに着目したカイコの動物モデルとしての特色として、1個体に使用する薬剤が少量で治療効果を検討することができる。また、カイコは他の代替モデルであるショウジョウバエと比べて体長が大きく、薬物動態を分析するのに必要な血液と臓器を分離することが容易である。さらに、カイコとヒトの薬物代謝経路などの薬物動態における共通点も存在する。既に、天然物である土壌細菌の培養抽出液から治療効果を指標にしたスクリーニングにより新規抗生物質カイコシンを分離同定し、マウス黄色ブドウ球菌感染モデルでも治療効果が認められている抗生物質の取得が成立している。一方、より優れた化合物の創出のためには合成展開が必須であるが、カイコの治療効果を指標にした抗菌薬の誘導体の評価を行うことが可能であれば、カイコモデルは創薬において有用なツールとなり得る。そこで本研究は、黄色ブドウ球菌感染モデルカイコを用いて、カイコの治療効果を指標にして有機合成化合物の治療効果を指標にした合成展開が可能であることを検証するとともに、新規合成化合物の体内動態および、その作用機序を解明する。有機合成化合物ライブラリーからカイコ黄色ブドウ球菌感染モデルを用いてスクリーニングを行い、カイコ黄色ブドウ球菌感染カイコに延命効果を示したエステル化合物(CAS : 261714-60-7)を発見しこの化合物をリード化合物とし有機合成展開し57種類の化合物が得られた。そのうち2つの新規化合物(X, Z)が黄色ブドウ球菌のカイコ感染に対してヒット化合物より抗菌活性があり、高い治療効果が認められた。化合物XとZはベンゼン環に結合しているクロル(Cl)の数の違い、クロル(Cl)の数によってS. pneumoniaeとS. sanganiusに対する抗菌活性を上昇させる。一方で、S. aureus (MRSA3, MRSA4, MRSA8, MRSA11, MRSA12)に対する抗菌活性能は、ベンゼン環に結合するクロル(Cl)がフッソ素(F)に置換されることで高くなる。
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