本研究の目的は、反社会的な嘘(登場人物の嘘によって、他者が被害を受けるシナリオ)と向社会的な嘘(登場人物の嘘によって、他者が利益を得るシナリオ)という目的の異なる2種類の嘘に対して被験者がどのように道徳判断をするのかについて明らかにすること、さらに、それらの嘘の道徳判断に関与する神経基盤についてfMRI(functional magnetic resollance imaging)を使用して検討することであった。 本研究では、同じ嘘という行為でも、目的に応じて道徳判断が異なり、さらには、それぞれの嘘に対する神経基盤も特異的なものであったという結果を得ることができた。 今年度は前年度に引き続き、実験データの考察や解釈のため数多くの論文の精読をこなし、国際雑誌への投稿を目標に英語論文の作成を行った。投稿結果は、差し戻しであったが、reviewerから本研究に対する問題点やアドバイスを頂いた。特に、論文中に記載されている言葉の使い方や解析方法の改善及び追加解析に対する指摘が多かったため、その点の改良を行った。現在、再投稿を行い結果待ちである。 道徳判断や道徳的行動に関わる脳活動を詳細に調べることは、人の意思決定などの社会行動における脳のメカニズムの一端を明らかにすることが可能になると考えられる。また、社会的行動の異常、特に道徳的な判断・行動の異常を呈する脳損傷患者の病態の理解に貢献するものと考えられる。 本研究の成果が、一部の認知症患者にみとめられる反社会的行動の神経機構の解明や、将来的には症状の早期診断等の一助となることに期待する。
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