研究概要 |
本研究は,血流制限下レジスタンス運動の新たなトレーニング効果として骨格筋ミトコンドリア機能におよぼす効果を明らかにするとともにその分子機序を解明すること,さらに心不全やメタボリック症候群などの慢性疾患患者における骨格筋不全の治療展開として血流制限下レジスタンス運動の有用性を証明することを目的としていた.本年度の研究成果として,昨年度の基礎的研究の成果から運動トレーニング誘発性の骨格筋ミトコンドリア機能の増加の分子機序として血管内皮一酸化窒素(NO)合成酵素(eNOS)由来のNOが重要な役割を果たしていることを見出した成果をもとに代謝疾患病態モデルである食事誘発性肥満(DIO)マウスにおいて検討したところDIOマウスにおいてもeNOS欠損することで運動トレーニング効果が抑制された.このことは,肥満や糖尿病などの代謝疾患患者や心不全などの心血管疾患患者などではNOの生物学的利用能が低いことが報告されていることから血流制限下トレーニングによって生じる骨格筋ミトコンドリア機能の増加が抑制される可能性が示唆される.一方,eNOS欠損マウスにNOの代謝化合物である硝酸を投与すると運動トレーニング誘発性のトレーニング効果の抑制作用が消失したことからNOの生物学的利用能が低い有疾患者における血流制限下レジスタンス運動は,硝酸などのNO関連化合物を摂取して行うことで有効なトレーニング効果を導く可能性が示唆された. しかしながら,本年度は,健常者および有疾患者を対象に長期的な血流制限レジスタンス運動を介入して有効性を明らかにすること目的としていたが,それを達成することができなかった.したがって,今後,このような健常者や有疾患者を対象とした血流制限下レジスタンス運動の長期的な効果を検討する必要がある.また,本研究において仮説したeNOS由来のNOとトレーニング誘発性のミトコンドリアの機能適応との関連も検討する必要がある.
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