研究概要 |
(1)腫瘍細胞の情報伝達系の確率論的・動的なゆらぎの実証 Rac1,Cdc42,RhoA活性をモニターするFRETバイオセンサーを発現するグリオブラストーマ細胞をそれぞれ使用し、培養条件下で播種した細胞を顕微鏡下とセルサイトメーターにより集団として分子活性がどのくらい広がって分布しているのか検討した。その結果、どちらもRac1,Cdc42活性は幅広い分子活性分布を、RhoA活性は比較的狭い分子活性分布を示した。次にRac1活性の高い細胞と低い細胞をセルサイトメーターで分取して培養し、活性が元と同じ分布に回帰するかどうか検討した。1時間、1日後は活性が保たれているが、1週間後には元の分布に回帰した。よって、この活性の変化が動的・確率的に変化していること(ゆらぎ)が示唆された。また1細胞内でのRac1活性を5日間、タイムラプスFRETイメージングし活性がゆらいでいることを証明した。 (2)FRET-GT法を用いたRac1分子活性の"ゆらぎ"の腫瘍の悪性度に及ぼす影響の解析 Rac1活性の高い細胞と低い細胞をセルソーターによって分取し、次世代シーケンサを使ってRNAの発現量を解析(RNA-seq)した。同様に、Cdc42とRhoA活性の高い細胞群、低い細胞群もそれぞれRNA-seqを行った。その結果、活性の高い細胞群と低い細胞群を比較したとき発現変動の大きかった遺伝子は、Rac1とCdc42で似たような発現パターンを示した。一方、RhoA活性では似た発現パターンは確認できなかった。これらのことは、Rac1とCdc42の活性分布パターンが類似し、RhoAが異なることと一致している。さらに、遺伝子機能によって分類し統計処理したところ、Rac1活性の高い細胞群には細胞運動などRac1活性と関係する遺伝子が有意に存在することが分かった。Rac1活性と腫瘍の浸潤能を検討するため、上記方法でセルソーターを用いて分取した細胞の浸潤能を、BD社のマトリゲルインベージョンチャンバーを用いて実験を行った。Rac1活性の高い細胞のほうが、マトリゲル内を早く浸潤することが分かった。インベージョンチャンバーを用いて、Rac1活性の高い細胞群で発現変動の大きかった遺伝子の中で膜に存在する遺伝子16個が浸潤に及ぼす影響をそれぞれ調べた。siRNAを用いてノックダウンし、その細胞の浸潤能を検討している。16個の遺伝子の内、4個の遺伝子、MMP15,TSN17_RAT,Freq/NCS-1,Pstpip2において、ノックダウンによる浸潤能の低下がみられた。
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