報告者の研究の目的は、アンリ・ルフェーヴルの思想における日常生活、都市、国家の三つの主題を空間論として総合的に把握することで、その全体像を示すと同時に戦後フランスの思想史における彼の思想の位置を示すことである。これまでの研究において国家の主題が未着手であったので、本年度は1976年から1978年にかけて出版された『国家について』(全四巻)の研究に着手した。そこで「研究実施計画」に記載したように、第一に、ルフェーヴルの国家論が彼の思想においてどのような位置を占めているのかを、より具体的にはこの国家論と1960年代から着手され1974年の『空間の生産』を頂点とする彼の都市社会学の領域での思想との関連を明らかにするため、ヒルデスハイム国際セミナーにおいて口頭発表をおこなった。第二にルフェーヴルの国家論が1970年代末に国際的な舞台で国家論を展開していたニコス・プーランザスのそれとの関わりにおいてどのような意味をもつのかを社会思想史学会の自由論題報告のなかで検討した。これら二つの発表とそこで得られたコメントを基に論文「ニコス・プーランザスとアンリ・ルフェーヴルー1970年代フランスの国家論の回顧と展望」を執筆し、その論文はr社会思想史研究』(第37号)に掲載される予定である(掲載許可・4月10日最終稿提出済み)。 この論文はプーランザスとルフェーヴルの国家についての理論的な問いかけを再構成するために「回顧」するだけでなく、それがいかなる現代的意義をもつのかを「展望」することを目的としている。とりわけ社会科学の領域で中心的な問いかけの対象となっているグローバリゼーションと国家の関係についての言説(世界システム論、世界都市仮説など)を参照することで、二人の国家論がそれぞれの仕方で当時の世界経済の変化に対応する国家の変容を先駆的に扱っていたことを明らかにした。それはプーランザスにおいては、「ドル危機」による第2次大戦後の通貨枠組みの変化に対する制度的諸装置の再配置(議会の立法権限の低下と行政の役割の増大)の問題として捉えられ、ルフェーヴルにおいては国境を越えて活動する多国籍企業によって生じる都市、国家、世界のスケールの変化の問顧として現れている。
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