研究概要 |
悪性腫瘍や自己免疫疾患に代表される諸疾患の応答を制御し、コントロールする誘導する事は、現在の分子標的薬の開発にむけた大きな課題である。その対象として、免疫機構で大きな役割を果たすサイトカインであるTNF (Tumor-Necrosis-Factor)やTRAIL (TNF-Related-Apoptosis-Inducing-Ligand)は、非常に注目されている。私達はこれまで、TNFを用いて線維芽細胞を刺激した際の、細胞内のシグナル伝達分子の挙動と遺伝子発現を同時に観察するシミュレーションモデルを作成した。こちらのシミュレーションモデルは、摂動応答理論をもとに作成されたモデルで、こちらのアプローチをTNFのシグナル伝達に応用し、ウェスタンブロットから得られた実験データを用いて、これらのデータに定量的に合致するモデルを作成した。さらに遺伝子レベルの発現を解析するため、モデルの拡張を行った。先行研究において、マイクロアレイ解析からTNFの刺激によって高発現する遺伝子が約180存在し、その遺伝子群を時系列発現パターンによってクラスタリングした所、発現のピークが0.5h, 2h, そして12hと大きく分けて3つに分類できる事が報告された(0.5h : Group1,2h : Group2,12h : Group3)。この現象は、mRNAの3'UTRに存在するAU配列の存在量によって誘導されるmRNA decayのバランスによって分類される事も報告された(Shengli et al. 2009)。しかしながら、これらのデータとシミュレーションモデルを用いて数理解析した結果、発現のピークが12hとなる遺伝子群については、TNFによる一次応答する遺伝子群とオートクラインが誘導する2次応答による遺伝子群が存在する事に起因する現象であるという結果を得た。次に、発現のピークが最も遅い遺伝子群について調査した結果、関節リウマチの原因の一つであるmmp (Matrix metalloproteinase)遺伝子が含まれている事がわかった。次にこのmmp遺伝子の発現を抑えるために、どのシグナル伝達分子の働きを抑制する必要があるのかについて、シミュレーションモデルを用いて解析を行った。得られたモデルの中の全ての分子をIn silicoノックアウト(KO)し、その影響を調べた。その結果、RIP1をノックダウンすることで、mmp遺伝子発現が最も抑制される事が示唆された。mmp遺伝子以外にも免疫疾患に大きく関わるVcam-1やIL-6などの遺伝子も制御される事も予測した。これらの結果を踏まえて、我々は独自にqPCRを用いて検証実験を行った。今回の実験では、Murine embryonic fibroblast (MEF)と3T3細胞を使用し、RIPの発現抑制には、その抑制剤であるNecrostatin-1 (Nec-1)を使用した。その結果、我々が予測したように、Group1-3の免疫疾患に大きく関わる遺伝子群の発現抑制に成功した。
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