研究概要 |
食道腺がんの発生母地であるバレット食道では腸上皮化生を誘導するホメオボックス転写因子CDX2が強発現する点で正常の食道扁平上皮と異なるとされている。昨年度は、胆汁酸がCDX2蛋白のプロテアソーム分解を促進すること、およびその系に胆汁酸受容体FXRの活性化とmiR-221/222発現上昇が寄与することを、CDX2を強制発現させた食道扁平上皮細胞HET1Aを用いて示した。本年度は、miR-221/222が食道腺がんの治療標的となりうるか更なる検討を行った。またヒト食道腺がんの切除検体を用いて食道腺がんにおけるmiR-221/222の発現変化を検討した。ヒト食道腺がん細胞株OE33ではFXRアゴニスト(GW4064)への曝露によりmiR-221/222の発現量が上昇した。OE33にanti-miR-221/222 inhibitorを導入すると、CDX2蛋白量が増加した。免疫不全マウス(NOGマウス)皮下に移植したOE33腫瘍塊に対し、anti-miR-221/222 inhibitorを7日間連続投与すると、コントロールと比較して有意に腫瘍増大が抑制された。さらに11例の患者検体(pT1b-SM2:1例、pT1b-SM3:3例、pT2-MP:2例、pT3-Ad:5例)を用いての検討を行った。miR-221/222の発現量はバレット食道部に比して食道腺がん部で有意に高く、また食道腺がん部の発現量は深達度の進行に伴って増加した。CDX2はdysplasiaを伴わないバレット食道では共発現を認めたが、low-grade dysplasia,high-grade dysplasia,adenocarcinomaと進行するに従って共に染色性が低下した。これは食道腺がんの発生過程で、胆汁酸がmiR-221/222発現上昇を介してCDX2蛋白分解に促進的に作用することを示しており、anti-miR-221/222 inhibitorは食道腺がん内でCDX2発現を回復させ、いわばバレット食道へ再分化させることによって腫瘍増殖抑制に寄与し、食道腺がんの新たな分子標的になりうると考えられた。
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