研究概要 |
2013年度の最も大きな成果は、研究対象としている陸産貝類2種(ヒメマイマイとエゾマイマイ)の強力な捕食者であるオサムシ類(エゾマイマイカブリ, オオルリオサムシ)を用いて摂餌実験を遂行し、有益な結果を得ることができたことである。作年度までの研究から、2種の陸産貝類は北海道内において同所的に生息するだけでなく、マイクロハビタット利用すら重複しているということが示されており、それ故、2種の陸産貝類がどのようにして別属の種として記載されるほどに大きな殻形態の種間差を保持しているのかを生息環境の違いから説明できないでいた。その代替仮説として提案したのが、捕食者―被食者間相互作用による、陸産貝類の種分化および表現型の多様化、という仮説であった。それを示すためには、どうしても捕食者であるオサムシ類を2種の陸産貝類に対峙させる必要があったが、これまでその実験は、十分な数のオサムシ類を採集できなかったために見送られてきた。それを実行できたというだけで、大きな成果があったとして良いだろう。 さらに、サハリン島とロシア極東部のサンプルをも使って、統計的手法を用いた殻形態の解析を行ったことによって、島嶼(北海道・サハリン島)で見られるオナジマイマイ科陸産貝類種群の殻形態の多様化が、大陸(ロシア極東域)でも同様に見られるということを明らかにした。さらに、それらの個体を用いて詳細な分子系統学解析を行った結果、東北アジア地域のオナジマイマイ科陸産貝類の北方種群は島嶼(北海道・サハリン島)種群と大陸(ロシア極東部)種群に系統的に大きく分けられるということが強く示唆された。これはつまり、同様の殻形態の多様化のパターンが、島嶼と大陸において独立に2回生じたということを示している。北半球に広く分布するトゲウオや東アフリカの古代湖に生息するシクリッドに代表される反復適応放散の新たな例である可能性が高い。
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