研究概要 |
本研究課題の最終目的は, 「フタボシツチカメムシの振動シグナル利用した親-胚間コミュニケーション系がどのようなプロセスで進化したのか」を解明することにある. 本年度は, 以下3つのテーマに着手した. 「1. 胚からのシグナルの特定と雌親の受容システムの解明」 : フタボシツチカメムシの雌親が, 孵化振動のタイミングをどのように決定するかを明らかにすることを試みた. 孵化直前の卵塊をもつ卵保護後期の雌親と, 胚発達の進んでいない卵塊をもつ卵保護初期の雌親とで卵塊を入れ替えたところ, 成熟卵塊を抱かせた卵保護初期の雌親は高い頻度で振動を開始した. また, 感覚遮断実験等により, 胚の化学物質および機械振動による刺激が, 雌親の触角やふ節において受容され, 振動が解発されることが示された. 「2. 斉一孵化の適応的意義の解明」 : 本種に見られる著しい斉一孵化現象には, それを促す強い淘汰圧の存在が予想される. 雌親を除去して斉一孵化を妨げた区と斉一孵化をさせた区で, 共食い頻度を比較する実験を行った. 斉一孵化を妨げた区では, 脱皮時期に共食い率が上昇することが明らかとなり, 孵化を斉一化することで幼虫間における脱皮時の共食いが抑制されることが示された. 「3. 親-胚間コミュニケーションの種間比較」 : 本邦に生息する亜社会性ツチカメムシ類5種について, 孵化直前の振動シグナルの有無を調べたところ, 全ての種でその存在が確認された. 各種の振動の物理的特徴を既存の分子系統樹上にプロットし, 系統的比較法を用いて種間比較を行ったところ, クレード毎に顕著な傾向が見られた. これらの結果は, フタボシツチカメムシを含む亜社会性ツチカメムシ類が, 振動および化学シグナルを介した双方向性の親-胚間コミュニケーションの存在を強く示唆するものである. このような特殊な孵化機構は, 本グループで獲得された緻密な保育行動の進化と深い関係を持つことが予想される.
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