我々はこれまでに、ダイオキシン類の前駆物質であるフェノール類の焼却時に炭化水素鎖を分子構造内に持つ化合物を混合することでダイオキシン類生成量が顕著に減少することを明らかにしている。本年度は、この抑制作用を示す真の原因物質を明らかにするために炭化水素鎖の熱分解によって生成するガス状炭化水素(メタン、エタンおよびエチレン)を焼却時の乾燥空気気流中に微量混合し、フェノール類の熱分解によるダイオキシン類生成が抑制されるか検討した。その結果、乾燥空気に対して体積比でわずか1~2%の混合でダイオキシン類の生成量が90%以上減少することを明らかにした。このことから、ダイオキシン類生成抑制は有機物の熱分解によって生じるガス状炭化水素によるものであると考えられた。焼却炉内では多くの有機物が燃やされ、焼却によって発生するガスの中にはこれら炭化水素ガスも存在する。そのため、この濃度は十分起こりうる値であり、実際の焼却炉においても共存有機物による抑制効果が期待できると考えられた。さらに、炉内酸素濃度がこの抑制作用に及ぼす影響について検討を行うために無酸素状態を想定した窒素気流中で同様の実験を行ったところ、乾燥空気気流中よりも低い濃度の炭化水素ガスの混合でダイオキシン類生成抑制効果が認められた。このことから、焼却によって酸素が消費されて酸素状態になりやすい焼却炉内では、共存有機物の影響が大きくなる可能性が示唆された。これらの成果は国内・国際学会で発表した。また、学術雑誌に投稿するため、現在論文を執筆中である。
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