研究概要 |
本年度は、カルサイトへのセレンの吸着機構を明らかにするための室内実験を以下のとおり実施した。 1.カルサイトへのセレンの吸着実験を実験室レベルで行い、SPring-8(兵庫県)において、吸着したセレンの化学状態をXAFS測定から決定した。その結果、(i)4価である亜セレン酸が6価であるセレン酸よりも強く吸着すること、及び(ii)吸着反応に伴い、セレン酸は一部亜セレン酸に還元されることを明らかにした。 2.量子化学計算による吸着過程のシミュレーションを行い、1で実験的に観測された価数依存性の化学的要因を明らかにした。本研究によって明らかにされた、水一カルサイト間のセレンの分配挙動に見られる特徴的な価数依存性は、酸化還元環境の変動が激しい地下水環境におけるセレンの移行を理解する上で重要な知見となり得る。 さらに、ヒ素やセレンという汚染元素に対し、天然の固定相としてカルサイトがどの程度重要であるかを調べるため、天然試料の分析を行った。今年度は、特に地下水汚染が深刻なヒ素を対象として、以下のとおり分析を実施した。 3、幌延深地層研究センターで掘削された深度500mの堆積物中に沈殿したカルサイトを分析対象とした,様々な鉱物が共存する試料から確実にカルサイトを分析するため、X線マイクロビームを用いた分析を行った。その結果、地下水中のヒ素は3価の亜ヒ酸であるにも関わらず、カルサイト中のヒ素は5価のヒ酸であった。他の共存鉱物の分析も同様に行ったが、水溶性の高い亜ヒ酸を水溶性の低いヒ酸として固定化できる鉱物はカルサイトだけであった。さらに、カルサイトは地球表層の幅広い環境において安定な鉱物である。これらを考慮すると、地下水環境においてカルサイトはヒ素の重要な固定相であり、さらに、ヒ素をその後溶出するリスクも少ない効果的な固定相として機能する事が予測される.
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