本研究は、ジェイムズ一世の治世に上演された一連の後期シェイクスピア劇、および同時代の劇作家の作品に登場するジェンダーの表象を当時の政治的・文化的背景に照らし合わせて分析することで、文学テクストとその政治的・文化的背景の間の密接な相互影響関係を考察するものである。 研究二年目にあたる本年は、ジェイムズー世治世下に上演されたシェイクスピア、ジョン・ウェブスター、ジョン・フレッチャー、フィリップ・マッシンジャーの劇作品を読み解いた。特にシェイクスピアの劇作品に関しては、『アントニーとクレオパトラ』と『コリオレイナス』という二つのローマ劇に焦点を当てた。主な研究成果としては、第一に、2012年5月に東京大学で開催されたThe 9th Annual Ohsawa Colloquiumにおいて、"The Burial of the Elizabethan Past : Antony and Cleopatra and Jacobean Politics"と題した口頭発表を行った。これは、ジェイムズー世の外交政策とブリテン連合計画をめぐる初演当時の政治議論をふまえて、『アントニーとクレオパトラ』をシェイクスピアの政治的なジャコビアン劇の一つに位置づけた『アントニーとクレオパトラ』論である。第二に、『コリオレイナス』論が日本シェイクスピア協会編『シェイクスピアと演劇文化』(研究社)に収録された。2012年8月に出版された本書は、日本シェイクスピア協会創立50周年を記念した公募論文集である。この二つの研究を通じて、ジェイムズ一世治下の政治と演劇の密接な関係について洞察を推し進めることができたと考えている。 この他に、二つの版(四つ折版と二つ折版)の比較を通じて、ジェイムズ朝初期の検閲ならびに自己検閲の可能性を模索した『リア王』論、シェイクスピアに次いで国王一座の座付作者となるフレッチャーとマッシンジャーの劇作品と政治の関係を探った論考に取り組んだ。
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