本研究があつかう「知覚」の問題系のなかで、「飽き」の概念をあつかう試みを開始した。第一段階のアプローチとして、ラース・スヴェンセン『退屈の小さな哲学』(2005)をはじめとし、退屈を論じる文献を収集、読解を進めた(ピーター・トゥーヒー『退屈息もつかせぬその歴史』、小谷野敦『退屈論』、國分功一郎『暇と退屈の倫理学』)。とりわけ、河本英夫『飽きる力』(2010)における、自己創造の契機である飽き概念を、メルロ=ポンティの習慣概念と比較しつつ、吟味した。 さらに、一つの具体的現象を通して、知覚の問題を美学の立場から考察するために、デザイン製品の「色彩化」をあつかう研究を進めた。より具体的には、19世紀後半から20世紀前半のアメリカにおける量産ギターの色彩化をあつかい、その成果は、2011年7月に意匠学会大会にて発表、2012年、同学会の雑誌に論文のかたちで掲載された。同論文では、1960年前後に、大手の量産ギター・メイカーの製品において、カラー・ヴァリエイションが豊かになる「色彩化」の現象を指摘し、色彩化に至るまでのアメリカン・ギターの歴史を跡づけた。そのうえで、アメリカの量産ギターにおける色彩化は、「近代化」に対する脱近代化、もしくは、「大衆化」であると位置づけた。
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