研究概要 |
糸状菌Aspergillus fumigatusより単離され、高いACAT阻害活性を有し、動脈硬化予防薬として応用が期待されるピリピロペンに着目し、その生合成クラスターに含まれる個々の酵素の触媒機構や立体構造の解明を目指した。酵素群において最初の触媒反応を担うCoA ligase, Pyr1はニコチン酸を開始基質としてATP存在下でAMP中間体を生成した後、CoASHと反応させる事で、最終的にニコチン酸CoAエステルを生成すると予想された。Pyr1の詳細な触媒メカニズムを調べるため、in vitroにおける機能解析を行った。全長560アミノ酸残基を有するPyr1を大腸菌発現ベクターであるpCold vectorへと組み込みIPTGで誘導培養後、Niキレートカラムを用いてアフィニティー精製を行った。得られた精製酵素を用いてニコチン酸、CoASH,ATPと共に酵素反応を行ったが、予想された生成物であるニコチン酸CoAエステルは検出できなかった。一方、CoASHの部分構造であるMアセチルシステアミン(NAC)を用いた場合、酵素反応に特異的なピークが見られた。有機合成により合成したニコチン酸NACエステルを標品として酵素反応生成物と比較した結果、リテンションタイム、MS、及びMS/MSが一致した。本研究結果から、Pyr1は従来のCoA ligaseの基質であるCoASHではなくNACを基質とするCoA ligaseであることが判明した。今後、立体構造などの情報から変異導入を行う事で基質特異性を拡大できれば、ピリピロペン骨格を有した新規化合物を生産できる可能性を示唆している。
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