研究概要 |
本研究課題のテーマは, 一対の視聴覚情報の発生源としての話者を, 効率的に定位, 認識できるメカニズムについて, 人間の感覚情報処理に関する基礎的知見から説明することである。話者の特定には, 発話内容の知覚, 構音動作の知覚, および, これらの視聴覚情報の統合という段階的な処理過程が関与しているが, これら全ての過程では, 共通して, 何らかの感覚情報間の対応付けが行われている。そこで, 私は, 感覚モダリティ内, および感覚モダリティ間の対応付けに用いられるメカニズムの性質を明らかにすることを目的としている。先行研究では, バインディング(対応付け)課題を用いた実験によって, 視覚の異属性(e.g. 色と運動)間, および異種感覚モダリティ(e.g. 視覚と聴覚)間の対応付けが, 約2.5Hzという共通の時間限界を示し, ゆえにこれらの対応付けが, 高次の共通のメカニズムで行われている可能性が示唆されている。よって, 視覚以外の感覚モダリティ(e.g. 聴覚)においても, 異属性(e.g. 振幅と音高)間の対応付けの時間限界が上記と共通の値になるのであれば, 感覚モダリティを問わず, 独立のモジュールで処理された感覚情報の対応付けは, 共通のメカニズムで行われると推察することができる。前年度までの研究においては, 三種類の聴覚属性を用いて, 属性間の対応付けの時間限界を測定した。その結果, 属性間の対応付けの時間限界は約2.5~4Hzであり, 条件によっては, 2.5Hzよりも有意に高い値となった。しかし, この実験においては, 聴覚末梢系で生じる何らかの手掛かりによって, 対応付けの可否によらず課題が遂行できていた可能性があった。そこで, 聴覚末梢系で生じる手掛かりを可能な限り統制できる刺激を用い, さらに刺激の顕著性を操作して, 聴覚属性間の対応付けの時間限界について, 再検討を行った。その結果, 聴覚属性間の対応付けの時間限界は約3~4Hzであり, この若干高い時間限界は末梢の手掛かりや刺激の顕著性によらず安定していることが分かった。このことから, 聴覚においては, 異なる属性間の対応付けであっても, 視覚属性間および異種感覚モダリティ間の対応付けに用いられる共通のメカニズムよりも低次の, 聴覚系内部のメカニズムで行われるものと考えられる。
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