農業から非農業への産業構造の転換を検証するために、本年度は、金融部門を新たにモデルに組んだ時の経済成長のメカニズムと産業構造の転換との関連性を検証する予定だった。しかし、前年度に行った研究の結果がすぐに出ることが期待できたため、こちらを完成させる方が、当初の目的を達成するには望ましいと考えた。そこで、前年度に行っていた「構造転換による経済成長と出生率に関する」研究を引き続き行った。本研究は、日本の出生率に関する研究である。 過去100年の日本の出生率の推移を概観すると、戦前までは、出生率は、30‰-35‰の値を維持していた。しかし、戦後になると出生率は、急激に減少した。具体的には、1950年に、30‰を切り、1978年には、15‰を下回った。この減少のスピードは、諸外国と比べると際立っている。何故、日本の出生率が戦後に急激に減少したのかについては、未だに解明されていない。この要因として、「農業から非農業への構造転換」、「乳児死亡率」、そして、日本の農村部に浸透していた「家父長制度」を挙げ、前年度の反省から、モデルを再び構築し、シミュレーション分析を行ってみた。その結果、ある程度、日本の出生率の推移と整合的となる結果を得た。また、反仮想実験を試みた結果、「農業から非農業への構造転換」や乳児死亡率が出生率の急激な減少の主要因であることが分かった。一方で、家父長制度そのものは、あまり出生率に大きな影響を受けないことが分かった。 この結果は、経済学的にとどまらず、歴史人口学の観点からも重要な貢献であると考える。なぜならば、この出生率の減少要因は、農業から非農業への構造転換にもたらされたという議論もある一方、家父長制度の廃止によって、もたらされたという議論も存在するからである。したがって、この研究は、その問題に一石を投じたという意味で、非常に意義のある研究といえる。
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