前年度より7月末までハーバード大学やボストン美術館を拠点としながら在外研究を行ってきた。本大学において受け入れを依頼したProf.Melissa McCormickとともに積極的に研究交流を行いながら、ハーバード・イェンチン研究所での研究会やワークショップを通して屏風絵のなかに描かれる風景について、特に東アジア的な文脈から研究を行ってきた。具体的には、タブローとして存在する欧米の絵画のとは異なる形で表現、上演、鑑賞されてきた東アジアの絵画作品の享受の「場」に光りを当てることによって見えてくる屏風絵の機能を作品調査に基づいて明らかにしていくことを目的としている。 調査については、前年度に引き続きボストン美術館では前年度までに未調査の近世初期の屏風絵について撮影と調査を行った(5月24日から6月5日までの数日間)。さらに、本年度はニューヨークのメトロポリタン美術館(6月20日、21日)、サンフランシスコのアジア美術館(7月20日)においても調査を依頼し、中世末から近世初期にかけての絵画作品の調査を行った。本年度も、引き続き『曽我物語』『平家物語』などの軍記物を視覚化した金屏風作品を重点的に調査した。その成果は3月18日に行われるAssociation for Asian Studies(於:サンディエゴ)の大会において発表する予定である。そこでは、日本芸能の祝祭性についてのパネルを企画した。米国で調査を行った軍記物の金屏風を中心に、金屏風の物語絵画が生み出されてきた背景(戦国時代以降急に物語絵画、特に軍記物が金地で荘厳されて描かれるようになる)を、幸若など祝祭的かつ劇場的な宴の場での享受との関係から考察する。
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