研究概要 |
水質変成の影響が顕著な始原的隕石であるCIコンドライト(Orgueil, Ivuna, Y980115, Tagish Lake)に含まれる炭酸塩鉱物(ドロマイト)に対して、半減期が370万年の放射性核種であるマンガン-53を用いた年代測定(マンガン・クロム年代測定)を行った。本研究では、マンガンとクロムを適量含んだ炭酸塩(カルサイト)の標準試料を実験室内で合成して標準試料とすることで、マンガン・クロムの存在量比および得られる年代値をこれまでにない精度および確度で決定した。その結果、Orgueilが4563.6 +/- 0.7Ma、Ivunaが4562.5 +/- 0.7Ma、Y980115が4563.8 +/- 1.2Ma、Tagish Lakeが4563.5+/-1.1Ma(Maは百万年前を表す)という年代値を得た。これらの年代値は誤差の範囲で一致しており、太陽系の形成(4568.2Ma)から約500万年後に相当する。このことは、短寿命放射性核種であるアルミニウム-26(半減期72万年)の壊変熱が変成の熱源として重要であるということを示唆している。そこで、得られた炭酸塩の年代値を制約条件として、アルミニウム-26の壊変熱を熱源と仮定し、隕石母天体の熱史をシミュレーションすることで母天体の形成年代を制約することを試みた。その結果、水質変成を受けている隕石の母天体は太陽系誕生から300_400万年に形成したことを明らかにした。これら一連の成果はFujiya et al. (2013), Earth and Planetary Science Letters 362, 130-142として発表された。 さらに、微惑星における水質変成の環境(温度など)を推定するため、CMコンドライトであるMurchisonに含まれるカルサイトに対して炭素同位体比およびマグネシウム・マンガン・鉄など微量元素の存在量を測定した。その結果、微量元素の存在量は炭素同位体比と相関しており、微量元素が数ppmのカルサイトは地球の標準物質に対して重い炭素(δ13C~80パーミル)に富み、数100ppmのカルサイトはそれよりやや軽い炭素同位体比(δ13C~30パーミル)を示すことを明らかにした。このことは、水質変成の最初期に重い炭素に富むリザーバーが存在していたか、最初期にカルサイトは非常に低温(~0度)で形成したことを示唆している。
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