研究概要 |
日常的に, 他者から評価される状況で行動する際, 他者の反応によって知覚や行動そのものに影響が生じることがある。本研究では, 社会的評価を受けている際の運動知覚や運動制御の特徴を明らかにし, 身体教育等の実践に役立てることを目指した。 最終年度である本年度は, 「研究実施計画」に記載の通り, 主に昨年度までに得たデータの分析及び論文の執筆を行った。まず, 英国University College LondonのPatrick Haggard教授と共同で行った心理物理学実験のデータを分析した。本実験では, 自分の行為が外界に結果を生み出したという感覚である「行為主体感」を客観的に測定するため, 自発的な運動(ボタン押し)とその結果として生じる感覚(音)の主観的時間間隔が狭まるという時間知覚のイリュージョン(intentional binding)を用いた。すると, ボタン押しの際に, 他者が快反応を示した条件に比べて, 不快反応を示した条件では, intentional bindingが小さくなり, 行為主体感が弱まったことが示された。すなわち, 他者から不快反応が生じると, 「自分のせいではない」と感じる知覚的バイアスが存在することが示唆された。本研究成果は, Current Biology誌より出版され, 海外のメディアにも報道された。また, データの分析と並行して, イタリア・ミラノのサンパウロ病院と共同で, 気分障害の患者様を対象に実験を行った。本実験により, 行為者の気分によって, 他者からの感情的反応が行為主体感に与える影響が変化するかが明らかになると見込まれる。年度中, 2編の原著論文が出版された他, 2013年度包括脳ネットワーク夏のワークショップや第7回Motor Control研究会など, 6件の研究発表を行い, 包括脳ネットワークより若手優秀発表賞を受賞することができた。
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