研究課題
特別研究員奨励費
DNAを利用した色素会合体は遺伝病の診断に用いるDNA検出プローブや細胞内での核酸の動態を調べる蛍光ラベル化剤などに用いられている。この会合体は、利用するDNAの構造上そのほとんどが色素を垂直に積層させたH会合体を形成する。一般的にH会合体形成は色素の蛍光を抑制するため、これまでの研究では会合に伴う消光現象の利用に主眼が置かれていた。一方、色素間の配向に着目し、それを精密に制御する試みは皆無であった。そこで本研究では、非平面構造の色素を用いることで色素間の配向を変え、H会合体と異なる配向を持つ新たな色素会合体の調製を目指した。もし新たな性能が見出せれば、この色素会合体を利用した様々な応用が可能となるだけでなく、新たな会合体の配向制御法の一つになりえる。非平面な色素としてpseudoisocyanine(PIC)を用いてDNA二重鎖内での色素会合体を調製した。この会合体は吸収スペクトル上では典型的なH会合体の挙動であるにも関わらず、その蛍光は消光されず単量体の蛍光よりも長波長側に観察された。またその蛍光は会合数の増加に伴い長波長シフトし、最大で180nmものストークスシフトを持つことが分かった。さらに蛍光励起スペクトル及び時間分解蛍光スペクトルの結果から、この蛍光は会合体由来の蛍光であり、色素間の配向が通常のH会合体から捻じれているため許容となる禁制遷移発光であることが分かった。しかし、この蛍光は輝度が低くプローブやラベル化剤へ応用するためには蛍光のさらなる増幅が必要であった.そこでこのH会合体の蛍光の増幅にFRETを利用することにした。具体的には、Cy5をFRETのアクセプターとして用いることで、H会合体からのドナー蛍光を増幅した。その結果、Cy5への高効率なFRETにより会合体の蛍光は17倍も増幅され、輝度の増幅に成功した。以上より、PICを用いた蛍光性H会合体の調製に成功した。またこの蛍光はFRETにより増幅可能であり、蛍光性H会合体がDNA検出プローブやラベル化剤などへ応用可能なツールであることが明らかになった。
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