研究概要 |
セメントペーストやコンクリートの性質は, 乾燥によって変化することが知られており, その解明にはカルシウムシリケート水和物(C-S-H)の分子構造とナノスケールの凝集構造におけるコロイド的性質の両者を理解する必要がある。このとき, C-S-Hは, 微晶質かつ分析に伴う前処理乾燥によって容易に変質を生じることから粉末X線回折分析や電子顕微鏡観察などにより定量的評価を行うことが困難である。本検討では, セメントペーストの水蒸気吸着等温線を分析することにより, 間接的に外部環境による長期的な乾燥などに伴う変質を評価する手法の確立を目的とした。 これまでにB㎜auer et al.によって提唱された多分子層吸着理論(以下, BET理論)は, ある吸着等温線をなす材料の比表面積を求めるために有効な手法であるが, 一般的に吸着等温線の相対圧0.05~0.40の領域のみしか評価, 再現できないことが知られており, これを修正された理論がいくつか提案されている。本検討では, BET理論について, 相対する二面から生じる水蒸気―固体表面間にはたらくポテンシャル場の重ねあわせを考慮することにより, 相対圧全域にわたる物理吸着性状の評価を可能とする理論への拡張を行い, 吸脱着プロセス中に生じるセメントペーストの水蒸気吸着性状の変化を評価することを試みた。 上述のスリット状細孔に適用可能な修正BET理論を用い, 吸着サイト数, 吸着熱, および, 制限空間について分析した結果, 吸着等温線測定中にカルシウムシリケート水和物の層間は, 14Å, 11Å, 9A程度に連続的に3段階に変化すること, 短期間の吸着等温線測定過程では吸着サイト数は大きく変化しないこと, 毛管凝縮は大きくは生じないことなどを明らかにし, カルシウムシリケート水和物の等温吸着モデルを提案した。
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