研究概要 |
平成24年度は,以下の3つの研究に取り組んだ。 一つ目は,昨年度から行っている,外国人労働者の数量緩和が企業と地域労働市場に及ぼす影響に関する研究である。この研究では,構造改革の一環として行われた「外国人研修生受入れ特区」に着目し,特区が受入事業所や地域の労働市場に及ぼした影響を評価した。分析の結果,特区措置を受けた事業所,すなわち外国人労働者の雇用を増やした事業所では,特区への認定後,非正規従業員が減少し,正規従業員が増加していたことがわかった。この事実は,外国人労働者の雇用が,日本人非正規従業員との間では代替関係,日本人正規従業員との問では,補完関係にあることを示唆する。この研究成果は,一橋大学や九州大学での研究会で報告した。 二つ目は,企業の人事データを用いた企業内キャリア形成に関する分析である。この研究の目的は,(1)企業内での仕事の幅と昇進の関係と,(2)女性従業員の結婚・出産行動と企業内配置の関係の検証である。具体的には,日本を代表する大企業(M社)の1995年から2009年までの業務分類を記した人事情報を整理し,個人属性とマッチングさせたパネルデータを作成し,回帰分析を行う。そして,(1)の研究では,技能の幅(経験職場の数の多さ)が技能向上として評価され,昇進確率の上昇として観察されるか,(現在は同じ部署の所属でも)過去に所属した部署の違いにより昇進に差がでるのか,地方事務所から本社へのキャリアパスは,昇進確率を高めるか-等の仮説を検証する。(2)の研究では,出産・育児休暇を取得した女性従業員は,取得しない女性従業員や男性従業員と比較して,仕事の幅の狭さ(業務の固定)は観察されたり,特定の業務に集中したりする傾向はあるか,育児休暇取得期間の長短によって仕事の幅やキャリアパスに差異が観察されるか,等を検証する。この研究は,次年度も継続する。 三つ目は,日系ブラジル人労働者の帰国後の再就職状況に関する調査である。2012年9月に,ブラジルの3都市(サンパウロ,マナウス,クリチバ)を訪問し,日系人支援団体代表者や日本へのデカセギから帰国した日系人を活用する現地企業経営者にインタビュー調査を行った。その結果,日本でのデカセギ経験が,あまり生かされない職場に再就職した日系人が少なくないことがわかった。例えば,日本では工場労働者として働いた日系人が,ブラジルでは,サービス業職種で再就職している事例も多かった。この調査で得たデータを用いた計量分析は,次年度に行う。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
いずれの研究テーマについても,研究の着手は,計画の時期にはじめることができた。しかし,第二の研究課題については,データの利用申請手続きや分析前のデータクリーニング作業に時間がかかり,第三の研究課題については,訪問先との調整に難儀し,予定の時期(5月)に調査を実施できなかった。そのため,平成24年度内に終える予定の作業計画の一部を,翌年度に持ち越した。
|