研究概要 |
筆者らは、本研究においてシクロペンタジエニル配位子を有する2価ルテニウム錯体と2つのアセチレン部位の酸化的環化によって生ずる含ルテニウム5員環錯体(ルテナシクロペンタトリエン)を鍵中間体とする反応の開発および反応機構解析に取り組んだ。成果として、ルテナシクロペンタトリエンと各種酸素求核剤の反応を軸に、2つの新規触媒反応、「1級アルコールを水素源とした1,6-ジインの水素移動還元/環化反応」および「スルホキシドからの酸素原子移動を用いた[2+2+1]環化による直接的フラン合成法」の開発に成功した。 前者に関連した反応として、カチオン性の2価ルテニウム錯体存在下、各種1,6-ジインに1級アルコールを作用させるとアルコキシ環化反応が進行することがTrost等によって見出されていた。一方、筆者らは、ルテニウム上にクロリド配位子を有する、電気的に中性の錯体を類似の系で用いると、1,6-ジインがアルコールから水素を受容しながら閉環し、1,3-ジエンを与えることを見出した。このように、ルテニウム上の配位様式の違いがその触媒機能を大きく転換させることを示した。 これまでの研究によって、ルテナシクロペンタトリエンと酸素求核剤の反応性の一般形式の概要が示された。そこで筆者らは、ルテナシクロペンタトリエンの反応性のより高度な応用を試みた。アルコールと異なり、単一の酸素原子上に求核性と求電子性が共存すると、同酸素がルテナシクロペンタトリエン中の2つの反応性のα-炭素と結合形成することで閉環し、[2+2+1]型の環化が達成されるものと期待した。各種条件検討を行った結果、カチオン性ルテニウム錯体存在下、1,6-ジインにジメチルスルホキシドを酸素源として作用させることで酸素移動型の[2+2+1]型環化反応が進行してフランを与えることを見出した。本反応は最も直截的な含ヘテロ5員環形成反応の一つと言え、合成化学的にも有用である。
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