研究概要 |
シグナル伝達経路を構成する分子の時系列データに情報が含まれており、その情報が下流にどのように処理され伝わっていくかを理解すること、すなわち分子ネットワークのシステム特性を理解することで生命システムの本質的な理解に繋がると考えられます。申請者は、シグナル分子の活性や下流の遺伝子発現量を定量的かつハイスループットに取得可能な自動分注ロボットによる定量的イメージサイトメトリーを用いて、シグナル伝達経路の中心的な因子であるERKをはじめとするMAPKs,および転写因子CREBによるIEGs(c-FOS, EGR1, c-JUN, FOSB, JUNB)の時間パターンに基づく発現誘導機構を非線形ARXモデルにより解析しました。結果、EGR1は、c-FOSに比べてERKの一過性の時間パターンに強く応答することが予測され、実験で検証されました。加えて、EGR1はNGFパルス状刺激の間隔を短くすることでステップ刺激に比べて強く誘導できることを実験的に導きました。今までのシステム生物学では、既知の分子ネットワーク(経路)に基づき常微分方程式によりモデルを作成する手法が一般的でした。しかしながら、分子ネットワークが詳細に分かっている経路は限られており適用範囲が狭いという問題点がありました。この問題の解決には経路が未知の場合でも入出力関係をデータから記述する統計的手法が適していると考えられますが、これまでの測定手法ではこのような解析を行うには精度・データ数が十分ではなく限界がありました。申請者は大量の時系列データを計測する手法および、統計的な解析手法を組み合わせることで、経路が未知な場合であっても、精度の良いモデルを作り、経路のシステムの特性を明らかにできることを世界で初めて示しました。本研究により、実験データに基づくシステム生物学研究の新たな方向性を提示することが出来たと考えています。
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