研究概要 |
複雑な実環境で物体操作するため,ヒトの手は動的な接触状態のなかで環境を認識し動作しているが,その仕組を解明する第一歩として,本研究では作業を妨げずに皮膚表面の動的な接触状態を計測できる装置の開発を行う.前年度報告の通り,ロボットによるスキルの再現以前に,ヒトのスキル計測を被験者の協力のもとで重点的に行うこととし,これに不可欠な開発を進め,被験者の手でスキル計測を実施する準備を完了した. まず,手探り動作の計測を試行し,昨年度までは不十分であった触覚センサの感度を向上した.具体的には,1)製造過程で感度が悪化していたことを確認してその原因を特定し工程を改善,2)センサ上部に圧力集中を促すよう突起(約Φ200x70μm)を全感圧点(片手1000点)に自動付与する工程を追加,3)読み取り回路の低ノイズ高ゲイン化,を進めた.結果,感度が1000gf/cm^2から100gf/cm^2と大幅に向上し,動的な接触を捉えるに十分な性能が実現できた.現状では触覚センサの製造に2ヶ月要し,上記内容の対外発表も行えていないが,今後直ちに論文誌の投稿を行う予定である. 次に,手の運動を精密に計測するため指の骨ごとに小型姿勢センサを装着するモーションキャプチャシステムを完成させた.センサは大村吉幸が開発したものであるが,指の動作を阻害せず装着できる配線および外装の開発,計測データから手の運動を再構成するアルゴリズムの検証に必要な被験者実験の遂行を私が行った. 最後に,スキル計測のため被験者を5名集め,それぞれの被験者の手について,よくフィットする触覚センサグローブの製作,手の皮膚形状と触覚センサ点の位置モデルの構築(3次元スキャナを使用),リンク長や関節の位置と傾きといった骨格モデルの構築(光学式モーションキャプチャと上記姿勢センサシステムの併用)を完了した. 実際のスキル計測については,a)日常のなかでありふれているが記述が困難なタスクや,b)職人の手技,などを対象として速やかに実験を進め,結果を博士学位論文としてまとめる予定である.
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