研究概要 |
本研究は、独自の研究成果に立脚した独創的な分子遺伝学的手法とゲノムワイドな手法を用いて、1)生体に必須の役割を持つ脂質の一つであるイノシトールリン脂質 : PI4,5P2を介するシグナル伝達経路の制御因子の同定を行い、2)イノシトールリン脂質の空間的ダイナミクスの制御機構を細胞内輸送システムに焦点をあてて明らかにすることで、3)イノシトールリン脂質シグナルネットワークの解明をめざすものである。本年度は以下のことを明らかにした。 まずPI4P5KであるIts3の過剰発現による異常な膜構造の構成成分を調べる目的で、Calcofluorを用いてIts3過剰発現細胞を染めると、異常な膜構造の中に細胞壁成分が存在することを明らかにした。またIts3過剰発現はGolgi体の肥厚と液胞の断片化を引き起こしたことから、異常な膜構造の形成は細胞内小器官や細胞内輸送に障害をもたらすことが考えられる。最後に、細胞内輸送に関わるRabの機能低下は、過剰発現レベルとendogenousレベルのIts3局在、またその産物であるPI4,5P2の分布に影響を与える。さらにRabの機能低下細胞において、PI4,5P2の量が顕著に低下したことを明らかにした(Li et al.,Genes Cells, 2014)。 またIts3過剰発現に伴う細胞増殖抑制を回復する因子として同定されたSlp2に関して、昨年度lipid/protein overlay assayを用いて、Slp2の結合脂質を同定したが、本年度liposome assayを駆使して、Slp2の脂質結合相手を探っている。さらに、京都大学と共同研究を行い、Slp2過剰発現細胞とノックアウト細胞における脂質プロファイリングを測定した。その結果、Slp2は脂質の代謝に重要な役割を果たしていることが明らかになった。
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