研究概要 |
研究の目的は、アルツハイマー病原因ペプチドのアミロイドβ(Aβ)の膜局在・膜挙動を解析し、Aβの毒性機構を探ることである。前年度に膜面上におけるAβの局在観察を行った、今年度はAβの膜ダイナミクス観察として、膜物性変化測定を報告する。 細胞膜に見られるドメイン構造(ラフト)を細胞サイズリポソーム膜上に再現し、重合度の異なるAβが膜吸着した際における膜の物性変化と膜ダイナミクスを解析した。脂質には、不飽和脂質DOPC,飽和脂質DPPC,コレステロール(Chol)の3種類を用いた。混合比率をDOPC/DPPC/Chol=40/40/20の割合で調整し、DOPCからなる無秩序液体相(Ld相)、DPPC,Cholからなる秩序液体相(Lo相)と2相からなるLo/Ld相分離ベシクルを作成した。Aβは膜局在(M.Morita,et al.Soft Matter 2012)の結果を基に、モノマーおよびオリゴマーを使用した。膜局在の結果では、モノマーおよびオリゴマーはLd相へ局在することが明らかになっている。そこで、初めに、ドメイン(Lo相)のブラウン運動を追跡、ドメインの拡散係数を導出することで、モノマーおよびオリゴマーがLd相の粘性にどの程度の影響を与えたか解析した。膜の粘性は通常0.1[Ns/m^2]であるが、モノマーでは0.2~0.4[Ns/m^2]、オリゴマーでは04~1.6[Ns/m^2]まで増加させることを明らかにした。さらに、膜ダイナミクスにおいて、オリゴマーは、膜面全体の揺らぎとドメインの曲率に依存しない出芽現象という浸透圧などの刺激とは異なるAβ特有の膜ダイナミクスを誘起した。これは、AβがLd相の粘性を増加し、ドメイン界面に働く線長力を低下させることで引き起こされた現象であることを考察した。本結果は、膜物性の観点から、Aβが膜に及ぼす毒性の効果を明らかにした成果である。 本成果は、現在、国際誌への投稿論文準備中である。
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