研究概要 |
最終氷期(その中でも4万4千年前)以降の東アジア夏期モンスーン変動を明らかかにすることを目的として、・モンスーンによる降水量変動に伴った長江からの淡水の流出量を過去4万4千年間で復元した。この目的のため、東シナ海北部で採取した海洋堆積物コアKYO7_04-01とKRO7-12-01を用い、完新世(1万年前~現在)と最終氷期(4万5千年前~2万年前)について、100年前後の高い時間分解能で、浮遊性有孔虫の酸素同位体比とMg/Ca比の分析を行ない、それを基に表層塩分変動の指標である海水の酸素同位体比(δ^<18>O_<sw>)の復元を行った。更に、その結果を基に、長江からの夏季の淡水流出量を復元するために、長江およびその集水域に関する気象データ、水文データ、海洋観測データのコンパイルを行って、東シナ海北部における表層塩分から長江河川流出量を推定する解析法の開発を行った。その結果、特に完新世における長江河川流出量が千年スケールで変動したことを明らかにし、その極大期、極小期の状態と現在の状態との定量的比較を行った。堆積物から復元された過去7千年間の長江流出量の時系列記録の振幅は,200-300年間程度の平均値の変動振幅を示していると考えられるが,このスケールでの流出量変動の振幅は±0.9×10-2Sv程度と,現在の10年変動(±0.2×10_2Sv)よりも大きな振幅を持つことが明らかになった.また,過去7千年間において,長江流出量と南米のエルニーニョ南方振動(ENSO)の頻度記録を比較すると,ENSOの頻度が高い(低い)ときに流出量が大きい(小さい)という関係が見られた.これらの結果から,長江集水域の降水量変動が,完新世を通じてENSOやそれに伴う亜熱帯高気圧の変動に大きな影響を受けてきたことが示唆された.一方,最終氷期と完新世の2つの気候の境界条件が異なる時代の比較からは、百年から千年スケールの変動の振幅が,最終氷期の方が完新世よりも2倍程度大きかったことが示唆された.これは,最終氷期と完新世の気候の境界条件の違いによって,東アジア夏季モンスーン降水量の変動が千年スケールで大きく変動したことを示し,北半球高緯度域の亜氷期(寒冷期)に東アジア夏期モンスーンが弱く,亜間氷期(温暖期)に強かったことを示唆している.
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