研究概要 |
本研究では昨年度までに、NMRサンプル管内に培地を潅流するバイオリアクターを開発し、細胞内に導入した安定同位体標識タンパク質の相互作用を観測するNMR法であるin-cell TCS実験によって、CG1の微小管結合界面上に存在する残基であるL77, I90, L92, V103, I117において、相互作用を反映する顕著なNMRシグナル強度減少を観測した。 本年度は、観測された相互作用が内在性微小管との特異的な相互作用に由来することを確かめるため、過剰量の非標識CG1を細胞内に導入することによるCG1-微小管間相互作用の阻害実験を行った。そこで、安定同位体標識CG1に加えその10倍量の非標識CG1を細胞内に導入して、in-cellNMR測定を行った。まず、10倍量の非標識CGl存在下において細胞内におけるCG1と微小管の相互作用が阻害されているかどうかを調べるため、本実験条件下における細胞内CG1の化学シフト値を調べた。その結果、10倍量の非標識CGIを導入することで、内在性微小管との特異的な相互作用を反映する化学シフト変化が抑制され、細胞内におけるCGI-微小管間相互作用が阻害されていることが示された。次に、10倍量の非標識CGI存在下において、HeLa細胞内における安定同位体標識CG1のin-cell TCS実験を行った。 その結果、CGIのL77, I90, L92, V103, I117におけるシグナル強度減少は顕著に減弱し、CG1全残基におけるシグナル強度減少率は0.5以下に抑制された。よって、in-cell TCS実験において観測されたシグナル強度減少は、細胞内における微小管との相互作用界面を反映しており、in-cell TCS法によって細胞内に導入したタンパク質と内在性タンパク質との相互作用を観測することに成功したと結論した。 TCS法は膜タンパク質などの巨大分子との相互作用解析に実績がある手法であるため、今後in_cell TCS法によって細胞内の膜タンパク質との相互作用を解析できると考える。
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