研究課題
特別研究員奨励費
初期発生に見られる形態形成過程の1つ、神経管閉鎖において、アポトーシス及びアポトーシス実行因子であるカスパーゼの活性化が重要な役割を果たすことが考えられてきた。これは、カスパーゼ欠損マウスが高頻度で外脳症や無脳症を示すためである。中でも、神経管閉鎖時の正中線接着部で起こるアポトーシスは、観察される部位の特異性から、正中線における左右神経板の接着と融合及びそれに続く神経管の表皮からの分離といった組織のリモデリングに寄与していると考えられてきた。実際に、これまでの研究から、口蓋や腹膜など左右から伸張してきた組織が1枚のシート状の組織となる融合部位でアポトーシスが起こり、組織融合を促進することが知られている。しかしながら、神経管閉鎖過程においては、実際にアポトーシスが正中線接着部でどのように働くかは不明であった。そこで、この点を明らかにするため、これまでに後脳神経管領域の1細胞レベルでの高解像度ライブイメージングに挑戦してきており、その観察に成功している。そこで本年度は、神経管が形成される過程で観察されるアポトーシスとして、正中線融合部に焦点を絞り、神経管形成期の組織の融合及びリモデリングに対するアポトーシスやカスパーゼ活性の寄与の解明に取り組んだ。この点を明らかにするため、正中線上の細胞の挙動、及びそこへのアポトーシスの寄与の解明に取り組んだ。その結果、閉鎖完了後の正中線上で細胞が閉鎖完了地点から遠ざかるように後退運動を示すことが、初めて明らかとなった。さらに、この後退運動はカスパーゼの阻害により抑制される事が明らかとなった。また、アポトーシスと後退運動の関係性を明らかにするため、細胞外基質分解酵素であるマトリックスメタロプロテアーゼに着目したところ、マトリックスメタロプロテアーゼを阻害することによっても後退運動が抑制されることが明らかとなった。本研究で明らかとなった事実は、神経管閉鎖形成異常の発症メカニズムに迫るだけでなく、他の組織融合部位で起こる形態変化の解明の一助となる可能性を秘めている。そこで以上の結果については、現在、論文投稿準備中である。
1: 当初の計画以上に進展している
本年度は、前年度までに構築したシステムを活用する事で、解像度の高い高品質のデータを多く得ることができた。そして、得られたデータを用いる事で、観察事象のメカニズムに迫る事ができたと考えている。また、論文として投稿準備にとりかかれたという点で、研究計画は大いに進展したと考えている。
今後は、マトリックスメタロプロテアーゼの活性部位や活性程度の詳細な観察を行って行く予定である。さらに、生体内で実際に起こりうる現象であるかについて、より丁寧に観察する予定である。以上をまとめる事で、論文として投稿したいと考えている。
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Journal of Cell Biology
巻: 195 号: 6 ページ: 1047-1060
10.1083/jcb.201104057