数年来の研究成果から、小学校1〜2年のうちから算数学習につまずく学習困難児の中に、情報の「継次的処理」が著しく困難な児童がいることが明らかになった。そこで、本研究では、認知特性の類似した3名のLD児(いずれも、K-ABC検査により、継次処理が同時処理よりも標準得点が有意に低いことが判明したケース)を対象とし、継次処理の弱さが算数のつまずきとどのように関係しているかについて、過去のデータも利用して明らかにすることとした。また、対象児らのすぐれた「数感覚」を重視しながら、彼らの苦手とする「手順の遂行」を援助する、自作のコンピュータ教材を活用して治療教育や家庭学習を推進した。その結果、「数え足し」「繰り上がり、繰り下がり」「乗法九九」「筆算除法」の内容において、対象児らが、「手順の遂行の困難」、或いは「聴覚的短期記憶の弱さ」のためにつまずいていた。これらの分野で、画面上のタイルを動かしながら繰り上がりを学ぶ教材や、九九表てがかりつきの筆算除法の教材など、コンピュータ教材が効果を上げた。認知特性の類似した複数の児童において同じ教材が効果を上げたことは、その教材の効用と、対象児のつまずきの原因となった認知特性との関係を考察する上で重要であると考えられる。すなわち、算数の初期学習に「情報の継次処理」が重要な役割を果たしていること、その継次処理の困難な児童に対して、その困難を軽減したり、対象児の得意とする能力を活かす(本研究の場合は、「数感覚」に注目した)ことが治療教育において効果を上げることが明らかとなった。
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