レプトン系の世代構造の究明は、素粒子の標準模型を超える理論の探求の現時点での最も有力な手がかりの一つである。標準模型を超える理論としての最有力候補である超対称性理論を用いることで、レプトン系の世代構造に関して、以下の研究成果を得た。 (1):メッセンジャー粒子がニュトリノの質量を量子効果で導出する画期的な模型の構築をした。この模型では、超対称性の破れを伝えるメッセンジャー粒子が適切なレプトン数を持つと、右巻きニュートリノが無くても量子効果によりニュートリノの質量が導出され、しかも、レプトンフレーバー混合については、Bi-Maximal(第1第2と第2第3世代のフレーバー最大混合)が実現され得る。 (2):レプトンフレーバー混合行列の繰り込み群解析による量子効果の評価を行った。フレーバー混合角は量子補正で大きな変化を受け得るが、フレーバー混合角が繰り込み群解析によって大きな変化を受けるか否かは、ニュートリノの質量の階層性の型と、ニュートリノレスββ崩壊等で観測可能な物理量であるニュートリノの2つのマヨラナCP位相によって完全に分類できることを示した。この場合、ニュートリノの物理的なマヨラナCP位相は、「フレーバー混合角が量子補正で大きな変化を受けるか否か」を決定する重要なパラメータになっていることを2世代と3世代の解析で示した。 (3):U_<e3>と太陽ニュートリノ問題の解の関係についての解析を行った。その結果、一般にnon-trivialな条件式が無い限りU_<e3>の測定値から太陽ニュートリノ問題の解を判定することは不可能であることを証明した。 (4):デモクラティック型の質量行列でのレプトンフレーバー混合角の量子効果の繰り込み群解析をおこない低エネルギーでのレプトンのフレーバー混合角を評価した。その結果、太陽ニュートリノのMSW解はtanβ>10の領域で、また、太陽ニュートリノの真空解は、ヒッグス探索実験で許されるtanβの全ての領域で、各々、量子効果により破綻してしまうことを示した。
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